レースにおいてどれくらいの比率を占めるのかは人によって考えが変わると思いますが、騎手無くして競馬は成立しません。今回は夏休みの宿題として騎手評価をしてみたいと思います。今回のテーマは読者のアラシヤマさんから頂いたもので、改めて騎手の評価をすることで、秋以降の予想に役立てたいと思います。
さて改めて騎手リーディングを眺めていて「う~ん・・・」となったのが、レーン騎手の順位ですね、この文章を書いているのは2019年7月15日で、この時点でレーン騎手のリーディングは16位です。もちろんレーン騎手は通年で乗っているわけではなく4月27日から6月26日までの2カ月間だけです、123レースに騎乗して1着37回、2着11回、3着18回、勝率3割飛んで1厘(以後301と表記)、複勝率537です。勝率301はリーディングトップの川田騎手258を上回り、複勝率537はルメール騎手、川田騎手に次ぐ高い値です。
これを見せつけられると騎手の能力に差があることは一目瞭然で、よく言われる馬質の偏りなどは副次的な物と言えなくもない、つまり能力のある騎手に良い馬が集まるという能力重視の結果も当然だと思います。能力のある騎手に良い馬が集まる、良い馬が集まるから更に成績が上がるという好循環ですね。
一時期武豊騎手が低迷しましたが、落馬の影響で明らかに能力が落ちたことで馬質が落ちました、社台・ノーザン系の馬に乗れなくなり、成績が下がってしまいましたね。ここで手を差し伸べたのが前田幸治さんやDr.コパさん、北島三郎さんなどの個人馬主さんで、キズナ、コパノリッキー、キタサンブラックでGⅠを勝ち再びトップジョッキーに返り咲きました。2年ほど前から社台・ノーザン系有力馬にも乗るようになり成績も上位で安定しています。
ところで皆さんは騎手評価をどのようになさっていますか?単にリーディングを見て評価していますか?2019年8月1日時点で騎手リーディング第5位は三浦皇成騎手です、6位以下には順に福永騎手、田辺騎手、ミルコ、岩田騎手という順になっています。福永騎手よりも、ミルコよりも上の順位なんです。違和感ありませんか?レーン騎手は短期免許でしたから17位です。では三浦騎手は福永騎手やミルコ、レーン騎手よりも上の評価でいいのでしょうか?
三浦騎手 勝率125 連対率230 複勝率316 騎乗数513回
福永騎手 勝率144 連対率306 複勝率436 騎乗数438回
ミルコ 勝率155 連対率277 複勝率429 騎乗数343回
ご覧のように勝率、連対率、複勝率全てにおいて福永騎手、ミルコが上回っています。騎手リーディングはご存知のように勝利数の評価です、しかも新馬・未勝利戦からG1まで1勝は1勝です。つまりある程度の能力があれば、騎乗数が多ければリーディングは上がるのです。2018年の結果を見てください、115勝で戸崎騎手が第3位です、騎乗数は883回と断トツの多さです。この年の戸崎騎手は勝率130、連対率267、複勝率377でした。第5位だった川田騎手は騎乗数561回、勝率166、連対率346、複勝率467という成績でした。さて戸崎騎手と川田騎手、どちらを上に評価しますか?
もう一点先ほど新馬・未勝利戦からG1まで1勝は1勝と書きました、これが騎手リーディングの悪い点で、下級条件のレースで多くの勝利数を稼げば上位に来てしまうんですね、これでは騎手の能力は見極められないと思います。そこで見ておきたいのが1レース当たりの賞金額です。これは獲得賞金を騎乗数で割ったもので、下級条件しか勝てないようでは、数字は小さくなってしまいます。
2019年8月1日現在のデータです。順番はリーディング上位から並べます。
川田騎手 540.99万円/レース
戸崎騎手 308.42万円/レース
ルメール騎手 528.03万円/レース
武豊騎手 325.17万円/レース
三浦騎手 188.73万円/レース
福永騎手 365.43万円/レース
田辺騎手 240.22万円/レース
ミルコ騎手 378.24万円/レース
岩田騎手 218.86万円/レース
松山騎手 187.72万円/レース
三浦騎手は<平場の帝王>などと言われていますが、間違った評価ではないんですね。明らかに上位陣の中で賞金率が低い、これは上級条件のレースでは好走していないことを表しているはずです。平場の勝利数は三浦騎手51勝に対して、ルメール騎手50勝、武豊騎手45勝を上回っています。しかし重賞ではルメール騎手6勝、豊騎手3勝に対して三浦騎手は1勝です。
みなさんがどのようなレースを買うかによって、騎手の評価は随分と変わると思います。重賞を買わずに条件戦を専門にしている方もいるとは思いますが、そういう方には今の三浦騎手は高評価ですね。逆に重賞しか買わない人にとっては、三浦騎手の評価は下がるでしょう。もう一点今年になって調子が落ちていると言われるミルコですが、リーディングでは8位で評価が下がるのも頷けます。しかしよく見てください、賞金率では川田騎手、ルメール騎手に次いで第3位なんです、馬質も下がったと言われている中で3位をキープしているのは、ミルコの騎乗技術の賜物でしょう。リーディングだけなら田辺騎手よりも下の評価ですが、決してそんなことはないんですよね。
騎手評価をするうえでの評価項目です。
「ペース認識」:正確な体内時計を有して、馬場と馬の能力を勘案して、ベストなレースをするためにポジションを上下する、またはポジションをキープする判断が出来るかどうか。
「自ら動く積極性」:馬場と馬の能力、ペースを勘案して中段や後方から動く判断ができるかどうか。
「騎乗技術」:馬に負担を掛けない騎乗が出来ているか。
「メンタル」:大レースや、テン乗りでも動じない強心臓かどうか。
「コース取り」:4コーナーから直線入り口に掛けてのコース取の上手さ。
「思考力」:馬の能力、他馬の能力、レースへのプラン構築など。
「運」:いわゆる持っているかどうか。
川田将雅騎手
ペース認識:4
自ら動く積極性:3
騎乗技術:4
メンタル:5
コース取り:4
思考力:5
運:3
ペース認識に関してはキセキで素晴らしい逃げ・先行を見せているので非常に高い能力を持っていると思います。ミッキーチャームやリリーノーブルでも逃げ・先行で素晴らしい騎乗をしていますね、特にリリーのブルのオークスなどは馬の能力を100%発揮させた騎乗、いや120%と言ってもいい程の能力を引き出す騎乗だったと思います。ミヤヤはこれを”ドS先行”と言っていますが、この騎乗に答えられる馬はキセキのように大成するんですよね。
自ら動く積極性について、今年の現時点での複勝率が5割を超えているように、かなりそつなく乗りますね。馬質も良いので後方から捲りを打つような必要はない事もありますが、中段からの差しが最も優位な戦法であることは、空気抵抗などを考えても当然ですからね。そもそも川田騎手は後方からのレースになることが少ないので、本人も中段から前で勝負した方が効率的と考えているのかもしれませんね。なので積極的に動いてポジションを上げたり、レース全体のスイッチを入れに行くような動きは少ない騎手です。
騎乗技術については何も問題はないと思います、直線でお尻が落ちるような動きがあるのは気になりますが、これだけの成績を出しているので問題ないでしょう。中段からの差しで矢のように伸びてくる動きを見れば、馬に負担を与える騎乗ではないと思います。
メンタルは非常に強いと思います、漏れ伝えられるところでも、調教師や先輩騎手にも堂々と言う事は言うらしいので、物怖じしない性格なのでしょう。インタビューにも素っ気ないというか簡潔ですし、TVの競馬中継で芸人とチャラチャラしたことをすることもないので、この辺りも一本芯が通っているなと思います。ジェンティルドンナでオークスを代打騎乗であっさり勝ってしまったように、大レースでのテン乗りも委縮することが無かったですね。もうベテランの域に入ってきましたし、大レースで緊張することもないと思うので、精神的には落ち着いたレースを今後もするはずです。
コース取りも上手い騎手だと思います、今年皐月賞、NHKマイルCとアクシデントに巻き込まれましたが、4コーナーから直線入り口で前が壁になったり、狭くなったりは無かったですね。もちろん長い目で見れば直線で詰まって追えなくなることもあると思いますが、その比率は少ない印象です。内枠でも割り引く必要はないですね。
思考力は馬の能力を深く考え、能力を最大限引き出す騎乗をしてきますし、レース全体を見てどうすれば勝てるのかを、しっかり考えて乗っているなと思わせるレースが多く、思慮深い人間性を想像させますね。リリーノーブルで2着になったオークスを見ても、アーモンドアイに勝つために、考えに考え抜いて騎乗した印象を受けます。
運は普通くらいかな、今年も皐月賞、NHKマイルC、高松宮記念、安田記念と不利を受けましたからね。競馬一家に生まれてはいますが中央競馬に縁故があるかどうかは不明で、デビュー後からすぐに有力馬に乗れたわけではないですね。努力で実績を残して今の地位に駆け上がった感じで、運に頼った感じは見受けられません。ここまでの努力が今後いい運を引き寄せる気もするので、川田時代も来るのではないかと期待しています。